大判例

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福岡高等裁判所 昭和60年(ラ)46号 決定 1985年8月12日

抗告人

住友海上火災保険株式会社

右代表者

徳増須磨夫

右訴訟代理人

野本俊輔

相手方

上瀧洋介

物件所有者

加藤一夫

第三債務者

松永トメヨ

第三債務者

松永祐明

右当事者間の福岡地方裁判所飯塚支部昭和六〇年(ナ)第四〇号抵当権に基づく物上代位権行使による債権差押命令申立事件につき、同裁判所が昭和六〇年五月一七日にした却下決定に対し、抗告人から執行抗告の申立てがあつたので、当裁判所は次のとおり決定する。

主文

原決定を取り消す。

抗告人の相手方に対する別紙請求債権目録記載の債権の弁済にあてるため、物件所有者が第三債務者らに対して有する別紙差押債権目録記載の債権を差し押える。

物件所有者は、差押えにかかる債権を取り立て、その他の処分をしてはならない。

第三債務者らは、物件所有者に対し、差押えにかかる債務の支払いをしてはならない。

本件申立て及び抗告費用は相手方の負担とする。

理由

一抗告人は、主文同旨の裁判を求めた。その理由は別紙執行抗告理由書記載のとおりである。

二そこで検討するに、記録によると、抗告人は、昭和五四年一一月一〇日相手方との間で、同年八月八日住宅ローン保証保険契約に基づく求償債権(債権額一、四〇〇万円、損害金年一五パーセント)を担保するため、相手方所有の別紙物件目録記載の建物(以下「本件建物」という。)について抵当権設定契約を締結し、同日その旨の登記を経由したこと、相手方は、右抵当権設定登記後の昭和五七年一二月二二日本件建物を物件所有者加藤一夫に真正な登記名義の回復を原因として所有権移転登記をしたこと、次いで、右加藤は、同五八年七月一五日西尾興産株式会社に対し、本件建物を、賃料一か月一平方メートル当たり一〇〇円、存続期間三年の約で賃貸し、同月一八日その旨の賃借権設定仮登記を経由したこと、右西尾興産株式会社は、同年八月一日右物件所有者の承諾を得て第三債務者両名に本件建物を転貸したこと、その後抗告人の申立てにより、同年一〇月二七日本件建物について競売開始決定がされ、同月二八日差押の登記がされたこと、そこで抗告人は、昭和六〇年五月一五日福岡地方裁判所飯塚支部に対して、前記抵当権の物上代位により、物件所有者が第三債務者らに対して有する別紙差押債権目録記載の賃料につき本件差押えの申立てをしたところ、同裁判所は、「元来抵当権は、目的物の交換価値を把握するものであり、目的物を占有せず、その使用収益権限を有しないものであつて、その収益権は抵当権設定者のもとに残存しているものである。したがつて、目的物利用の対価は、原則として抵当権の把握する目的の範囲外であり、物上代位の客体となり得るものではなく、抵当権の目的物自体の滅失・毀損等の物理的原因によりその全部又は一部について抵当権を行使できなくなつたとき、又は抵当権設定後の第三者に対する賃貸(既に賃借権が設定されている物件について抵当権を設定した場合においては、抵当権者は賃借権の存在する物件としてその目的物の交換価値を把握したはずである。)により目的物自体の担保価値の一部が喪失したときなど、当初確保した担保価値の全部又は一部が滅失ないし喪失した場合に限り物上代位を認めるものと解すべきである。そして、抵当権設定登記後の第三者に対する賃貸であつても、それが民法三九五条によつて保護される短期賃貸借である場合には、これを抵当権者に容認させて所有者の使用収益を維持させており、価値権と利用権の調節が図られているのであるから、右の場合にも、右賃料は物上代位の客体とはならないものと解すべきである。」として、右申立てを却下したことが認められる。

しかしながら、当裁判所は、抵当権に基づく物上代位権は、目的物が賃貸された場合の賃料請求権に及ぶものと解するのが相当であると思料する。けだし、抵当不動産を賃貸してその対価を収受することは、抵当権の目的物の交換価値の一部実現に外ならないから、これについて物上代位を否定すべき理由はなく、右物上代位を認めたとしても、設定者から目的物の収益権能を奪わないという抵当権の性質に必ずしも反するものとはいえないし、抵当権者が、目的物について抵当権を実行し得る場合でも物上代位権を行使し得るとした最高裁判所昭和四五年七月一六日第一小法廷判決(民集二四巻七号九六五頁)の立場と符節すると考えられるからである。

更に本件に限つてみるも、前記認定の事実によれば、本件第三債務者らの賃貸借はいわゆる短期賃貸借であると認められるところ、短期賃貸借における賃料請求権であつても、これと三年を超える期間の賃貸借における賃料請求権とを物上代位の目的として異別に解すべき合理的理由はないのであつて、右は「期間の定めのない建物賃貸借は、民法三九五条の短期賃貸借に該当すると解するのが相当である。」とした最高裁判所昭和三九年六月一九日第二小法廷判決(民集一八巻五号七九五頁)の趣旨にも副うもの、というべきである。

三そうすると、抗告人の本件申立ては正当であるから、右申立てを却下した原決定を取り消して右申立てを認容し、費用の負担につき民訴法九六条、八九条を適用して主文のとおり決定する。

(西岡徳壽 鍋山 健 最上侃二)

担保権・被担保債権・請求債権目録≪省略≫

差押債権目録≪省略≫

物件目録≪省略≫

[執行抗告理由書]

一 原決定は「抵当権設定当時既に目的物について賃貸借がされている場合や抵当権設定登記後にされた賃貸借であつてもそれが民法三九五条によつて保護される短期賃貸借である場合には、抵当権者は、右賃貸借の対価である賃料について物上代位権を行使することはできず、民法三七二条で準用する同法三〇四条所定の賃料中には右賃料を含まないものと解するのが相当である。」として、本件申立を却下した。

しかしながら、右解釈は民法三〇四条、三七二条を恣意的に曲解するものであり、到底容認できない。

二1 まず、原決定は右結論を導く前提として次のとおり述べる。

「(1)元来抵当権は、目的物の交換価値を把握するものであり目的物を占有せず、その使用収益権限を有しないものであつて、その収益権は抵当権設定者のもとに残存しているものである。

(2)したがつて、目的物利用の対価は、原則として抵当権の把握する目的の範囲外であり、物上代位の客体となり得るものではなく、抵当権の目的物自体の滅失・毀損等の物理的原因によりその全部又は一部について抵当権を行使できなくなつたとき、又は抵当権設定後の第三者に対する賃貸により目的物自体の担保価値の一部が喪失したときなど、当初確保した担保価値の全部又は一部が滅失ないし喪失した場合に限り物上代位を認めるものと解すべきである。」

2 右判示は一見なるほどと思わせるが、そこには座視しえない重大な論理飛躍がある。右判示の(1)部分は、抵当権が質権と異なり抵当権者は目的物の交換価値だけを把握し、目的物の利用価値は抵当権設定者が保留する、との趣旨において抵当権の意義ないしは本質を述べるものとして正当である。

しかし、そのことから直ちに(2)部分のように「目的物利用の対価は原則として抵当権の把握する目的の範囲外であり物上代位の客体となり得ない」といいうるのであろうか。抵当権は、目的物の利用価値と交換価値を分離して交換価値のみを把握することに特色がある、との本質論から導きうることは、抵当権設定者は目的物を自由に利用できる(自己が使用したり、第三者に利用させたりすることができる)ことであり、抵当権者はその設定者の目的物利用関係自体(自ら使用すること自体又は第三者に使用させること自体)について何ら干渉することができないということである。しかも、この抵当権設定者が目的物の利用価値を保留し、目的物を自由に利用できるという権限は、抵当権の実行時まで、という限定付であることを忘れてはならない。被担保債権が履行遅滞となり、抵当権が実行され、競落されれば、設定者の目的物利用権限は消滅する。(なお、目的物の賃借人と競落人との間の権利関係の調整が問題として残り、その一場面の調整方法として民法三九五条が設けられているが、このような配慮はあくまで賃借人等の占有者と競落人間の問題にすぎないのであつて、設定者の目的物利用権限が抵当権実行により消滅することに変わりは無い。)

このように、設定者が把握している目的物の利用価値というのは、設定者が、抵当権の実行をうけない限りにおいて、目的物を自ら使用し、あるいは第三者に利用させうるということに過ぎない。第三者に使用させて、賃料を取るのも取らないのも設定者の権限の範囲内のことであり自由である。

しかし、そのことと設定者が第三者より受領する賃料が物上代位の客体となるか否かとは論理的な結びつきがない。設定者が第三者に目的物を利用させ賃料を受領することが自由にできるから、その賃料は物上代位の対象とはならないという議論は明らかな飛躍である。

3 ここで確認しておかなければならないのは、抵当権に基づく物上代位も広義の抵当権実行の一態様であるということである。つまり、物上代位も競売手続と同様に、被担保債権の履行遅滞があつてこそ始めて抵当権者がとりうる担保実行手段である。逆にいえば、被担保債権が履行遅滞にならない限り、抵当権者が物上代位権を発動することはできない。この点についての異論は無いと考えるが念のため民事執行法一九三条二項が同条一項の手続(この一項後段が物上代位権の行使手続を定めている)について同法一八二条を準用し、同条の「担保権の不存在」は「弁済期未到来」の場合にも準用すべしとの解釈論が一般的であることを指摘しておく。

かりに、物上代位権の行使が債務者の履行遅滞を要件とせずに債務者が約定どおりの履行を行つているにもかかわらず行使可能なのであれば、設定者が第三者に目的物を利用させ賃料を受領することが自由であるとの理由から、よつてその設定者が受領する賃料は物上代位の対象とはならない、と論ずることもあるいは可能であろう。だが、その仮定が成り立たないことは右に述べたとおりである。

4 さらに、物上代位権の行使が設定者と賃借人との関係にどのような影響を及ぼすかについても考察すべきである。

抵当権者が物上代位権を行使した場合、抵当権者は設定者が賃借人より受領すべき賃料を差押えて取立てうるが、設定者と賃借人間の賃貸借契約関係はそのまま維持され賃借人の立場にも何ら影響がない。賃借人は従前どおり契約に従つた賃料を賃貸人ではなく抵当権者に支払えば足りるのであり、賃借人は従前と同じ立場で目的物を使用占有できるのである。ただ、設定者が得ていた賃料が抵当権者に取り上げられるだけなのである。

5 原決定が飛躍した論理を展開した理由は、以上のような物上代位の実体を充分に考慮しなかつたためではないかと推察する。以上のとおり、目的物利用の対価が物上代位の客体となりうるか否かは抵当権が利用価値を把握するものではないことから当然に結論が導き出される問題では無い。

民法三七二条が、「目的物の賃貸によつて債務者が受ける金銭」について物上代位を認める同法三〇四条を無条件に準用する以上、文理解釈から、抵当権者も目的物の賃料に対して物上代位権を行使しうると解するのが自然であり正当である。我妻栄・民法講義Ⅲ「担保物権法」二八一頁は「抵当不動産の賃貸料は、交換価値の済し崩し的な具体化とみるべきだから物上代位の目的とすることは、理論上適当であり、実際上も意味がある。――中略――抵当権は、その設定後の賃貸借または用益物権を覆滅する効力を有する。しかし、その場合にも、その賃貸借ないし用益権の存続する限りその対価を優先弁済に充てうるものとすることにも意味がある。また、抵当権は設定者から目的物の用益権能を奪わないことを特質とする。しかし、設定者がその用益権限を他人に与えることによつて対価を生じた場合には、抵当権の効力をその上に及ぼしても抵当権の右の性質に反するとはいえないであろう。」と述べているのを参考とすべきである。

6 なお、実質的に考えた場合に、設定者が目的物を賃貸して収益を挙げているのに、その賃貸借があるために競売手続が進行せず(競落人に対抗しうる賃借権であるか否かに拘らず賃貸借が存在するだけで、事実上、競落人が出現しない等により競売手続が進行しないケースがまま見受けられる)、債権者が競売による回収もできず、さらに設定者が得ている賃料収入を物上代位により差押えることもできないのであれば、抵当権は著しくその実効力を欠くことになり、両者の公平を欠くことが明らかである。

特に本件の如き住宅ローン債権を実質的な被担保債権(本件はいわゆる提携型住宅ローン保証保険のケースであり、被担保債権は支払保険金求償権であるが、実質的には、非提携型住宅ローン保証保険のケースに取得する住宅ローン債権と変らない)とするケースの場合、債務者がローン債務を不払にし、かつ、他方、物件を第三者に賃貸してローン債務金額と同額又はそれ以上の賃料を得ていることが稀ではなく、そのような場合に物上代位権を行使しえないとするならば、債権者と債務者間の不公平は重大かつ深刻であり、抵当権の制度目的にも反する。

また、物上代位を認めたところで、物上代位によつて抵当権者が取り立てた賃料は債務者の債務弁済に充てられるのであるから、それだけ債務者の債務が減少し、目的物の被担保債権額も減ることになり、債務者側にとつて経済的には何等損失を蒙らないことに注意すべきである。

三1 次に原決定は「抵当権設定登記後の第三者に対する賃貸であつても、それが民法三九五条によつて保護される短期賃貸借である場合には、これを抵当権者に容認させて所有者の使用収益を維持させており、価値権と利用権の調節が図られているのであるから、右の場合にも、右賃料は物上代位の客体とはならないものと解すべきである」と判示しているが、これも誤りである。

2 民法三九五条は、短期賃貸借は抵当権者に対抗することができる旨規定しているが、その意味は、要件を満たす賃借権は抵当権の実行による競落人に対抗しうるということに他ならない。同条は、本来、抵当権設定後の賃貸借または用益物権は抵当権実行により覆滅させられるのが原則であるところ、特に例外として短期賃借権については競落人に対抗できることを規定したものである。確かに、同条はそれによつて価値権と利用権の調節を図つたものといえるが、「短期賃貸借である場合にはこれを抵当権者に容認させて所有者の使用収益を維持させている」との判示は根拠がない。そもそも設定者(所有者)は前述のとおり目的物を自由に使用収益しうるのであり、短期賃貸借の場合に限定される訳ではない。設定者は短期賃貸借に該当しない形で目的物を第三者に賃貸し賃料を得ることも自由にできるのであり、これを抵当権者が阻止することはできない。その意味で、抵当権者はどのような賃貸借であつても容認せざるをえない立場である。

しかし、設定者が自由に使用収益を維持することが可能であり、抵当権者がそれを容認することと、競落人に賃借人が対抗できるか否かは別問題である。民法三九五条はこの競落人と賃借人との対抗問題について規定したものに過ぎず、この条文を根拠に物上代位の可否を論ずるのは、右別問題を混同するものと言わざるを得ない。

四1 以上のとおり、原決定は二重の誤った判断のもとに前記一記載のとおりの判示をして本件申立を却下したものであるから、取り消されるべきである。

2 なお、本件と同種事案について、判例が別れているが、東京高裁管内においては、同高裁の積極判例(昭和三一年九月四日決定・下民集七巻九号二三六八頁)をうけて現在でも物上代位を認めている。(法曹会発行「債権不動産執行の実務」一五三頁参照)

他方、大阪高裁管内においては、同高裁の消極判例(昭和五四年二月一九日決定・判例時報九三一号)をうけてこれを認めていない様子である(前掲書一五四頁参照)。しかし、同じ大阪高裁の積極判例として昭和四二年九月七日決定(判例時報五〇六号三九頁)がある。

3 執行抗告については、最高裁への再抗告の方法が無く判例が統一されないと実務上大変不便であるが、以上に述べたとおり積極的に解するのが正当なのであつてぜひ全国の高裁をリードする意気込みをもつて、正当な理論構成に基づく積極判例が示されることを要請します。

なお、添付資料どおり福岡地裁管内において、本庁及び小倉支部において賃料の物上代位が認められていることを付言します。

《参考・原決定》

[主   文]

本件申立てをいずれも却下する。

[理   由]

一、本件申立ての趣旨及び理由は別紙記載のとおりである。

二、1 記録によると、債権者は、昭和五四年一一月一〇日債務者との間で、同年八月八日住宅ローン保証保険契約に基づく求償債権(債権額一、四〇〇万円、損害金年一五パーセント)を担保するため、債務者所有の別紙物件目録記載の建物(以下「本件建物」という。)について抵当権設定契約を締結し、同日その旨の登記を経由したこと、債務者は、右抵当権設定登記後の昭和五七年一二月二二日本件建物を物件所有者加藤一夫に真正な登記名義の回復を原因として所有権移転登記をしたこと、次いで、右加藤は、同五八年七月一五日西尾興産株式会社に対し、本件建物を、賃料一か月一平方メートル当たり一〇〇円、存続期間三年の約で賃貸し、同月一八日その旨の賃借権設定仮登記を経由したこと、その後債権者の申立てにより、同年一〇月二七日本件建物について競売開始決定がされ、同月二八日差押の登記がされたことが認められる。

そして、債権者は、右西尾興産株式会社が物件所有者の承諾を得て第三債務者両名に本件建物を転貸しているとして、前記抵当権の物上代位により、物件所有者が第三債務者に対して有する別紙差押債権目録記載の賃料につき本件差押の申立てをした。

2 ところで、先取特権の物上代位に関する民法三〇四条は、目的物の賃貸によつて債務者が受けるべき金銭、すなわち賃料についても物上代位権を行使し得る旨規定しており、民法三七二条は右三〇四条を準用している。

しかし、元来抵当権は、目的物の交換価値を把握するものであり、目的物を占有せず、その使用収益権限を有しないものであつて、その収益権は抵当権設定者のもとに残存しているものである。したがつて、目的物利用の対価は、原則として抵当権の把握する目的の範囲外であり、物上代位の客体となり得るものではなく、抵当権の目的物自体の滅失・毀損等の物理的原因によりその全部又は一部について抵当権を行使できなくなつたとき、又は抵当権設定後の第三者に対する賃貸(既に賃借権が設定されている物件について抵当権を設定した場合においては、抵当権者は賃借権の存在する物件としてその目的物の交換価値を把握したはずである。)により目的物自体の担保価値の一部が喪失したときなど、当初確保した担保価値の全部又は一部が滅失ないし喪失した場合に限り物上代位を認めるものと解すべきである。そして、担当権設定登記後の第三者に対する賃貸であつても、それが民法三九五条によつて保護される短期賃貸借である場合には、これを抵当権者に容認させて所有者の使用収益を維持させており、価値権と利用権の調節が図られているのであるから、右の場合にも、右賃料は物上代位の客体とはならないものと解すべきである(大阪高等裁判所昭和五四年二月一九日決定、判例時報九三一号七三頁参照)。

したがつて、抵当権設定当時既に目的物について賃貸借がされている場合や抵当権設定登記後にされた賃貸借であつてもそれが民法三九五条によつて保護される短期賃貸借である場合には、抵当権者は、右賃貸借の対価である賃料について物上代位権を行使することはできず、民法三七二条で準用する同法三〇四条所定の賃料中には右賃料を含まないものと解するのが相当である。

3 これを本件についてみると、前記二1認定の事実によると、物件所有者と西尾興産株式会社との間の本件建物についての賃貸借は、民法三九五条の短期賃貸借であると認めるほかはないから、債権者において右賃貸借ないしこれを前提とする転貸借の対価について物上代位権を行使することはできないものというべきである。

そうすると、抵当権の物上代位により別紙差押債権目録記載の賃料の差押を求める本件申立ては、物上代位の客体とならないものを目的とするものであるから許されないものといわなければならない。

三、よつて、本件申立ては失当であるからこれを却下することにし、主文のとおり決定する。

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